黄昏に香る音色 2
明日香は、何の迷いもなく、即答した。

「愛してるわ」

「あんな酷いことをしてるのに!?」

「そうね…酷いことをしているわね」

「それなのに、どうして?」

明日香はソファから離れ、少し歩くと、

香里奈の向こうにあるCDラックから、一枚のCDを取り出した。

それはマリーナ・ヘインズのアルバム。

明日香と出会う前の…学生だった頃の啓介が、参加している。

音が流れる。

「香里奈…」

明日香は、香里奈の方に振り返った。

「あたしには…今の彼の音が、泣いてるように聴こえるの」

香里奈は、そのアルバムを聴くのは、初めてだった。

枯れた、説得力のある女の歌声に、

甘く太い…啓介の音色。

「違う…」

香里奈は呟いた。

会場で、隣で聴いた音と、明らかに違っていた。

「悪いことをしてるのが、家族の一人だったら…」

音に聴き入っていた香里奈は、はっとして、

明日香を見た。

明日香はやさしく微笑み、

「家族だから…止めないと」

「家族…」

「例え、長い間離れていても…家族は家族よ」

明日香は、CDを聴きながら、

「家族の問題は、家族が向き合わないといけないの」
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