黄昏に香る音色 2
「里緒菜…」

香里奈は、やっと口を開き、おもむろに立ち上がった。

香里奈と里緒菜は、お互いの目を見つめる。

しばらく、じっと様子を見ていた直樹は、

静かに口を開いた。

「この騒動を、止められるのは、速水さんだけだ…」

「ナオくん…」

里緒菜は、直樹の方を向く。

「これは…ただの騒動じゃない…。音という目に見えない…おそろしいものとの闘いだ…」


直樹は、会場の通路で聴いた音を思い出していた。

「音のドラッグと言われるくらい…凄い音だったけど…」

直樹は、目をつぶった。

瞼の裏に浮かぶ…

あの輝いた歌声。

公演で会った…

あの女の子。

「でも、速水さんの歌にはかなわないよ」

直樹は目を開け、

「ぼくには、わかる」

そう言い切った。

「俺もそう思う」

和也は、もたれていたフェンスから離れ、ドアに向かって歩き出す。

「この問題は、社会問題になっているが…根本的には、親子の問題だ」

和也は、ドアのノブをつかむと、振り返った。

「俺はそう思う」

ドアを閉め、

和也の姿が消えた。

香里奈と里緒菜は、和也を見送った後、再び顔を見合わせた。


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