黄昏に香る音色 2
香里奈は一人、マンションに帰ると、ソファに座り…ぼおっとしていた。

何も考えていないはずが…

いろんなことが、頭に思い浮かんだ。

ステージ。

小さい頃は…

ダブルケイで。

記憶は薄れているけど…親子で行ったアメリカ。

ニューヨークの小さなライブハウスで、香里奈は歌っていた。

みんなの笑顔。

それは、覚えていた。

この前のコンサート…。

夢中で、覚悟して、上がったけど、

ステージの広さは、覚えていた。

高い天井に、多くの人たち。


「歌いたかったな…」

香里奈は呟いた。

最近まで、何も興味を持てない…無関心な人間だと、自分で思っていたけど、

違った。

好きなことは、わかっていたのに、

無理やり、嫌いにしてたから…、

何も興味を、持てなかったのだ。

志乃の言葉。

歌って。

その言葉が、香里奈の心の壁を壊した。

今まで、せき止めていたものが、

一気に溢れそうだ。


香里奈は立ち上がると、

CDラックから、一枚のCDを取り出した。

LikeLoveYou。

明日香と啓介のバンド。

聴きたくても、聴きたくなかった音。

香里奈は、CDをかけた。
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