黄昏に香る音色 2
志乃は、喉を押さえると、
何度か咳払いをした。

「志乃ちゃん…どうして、ここ?」

「もともと…あたしがでるはずのコンサートだから…」

志乃は、ステージの方を見つめた。

壁で、向こう側は見えない。

志乃は、フッと笑う。

香里奈は、志乃の横顔を見つめ、

「体は大丈夫なの?」

志乃は、香里奈の方を見ると、

微笑み、

「おかげさまで…声以外は、大丈夫」

香里奈は、黙り込んだ。

かつては、天性の歌声と言われた声が…。

そんな香里奈に近づき、

志乃は抱きしめた。

「大丈夫。あたしは負けないから」

志乃は、ぎゅっと抱きしめ、

ゆっくりと離れた。

「香里奈ちゃんに、渡したいものがあるの」

志乃は、香里奈の腕をつかむと、

女子トイレに連れて行く。

「あたしの楽屋…今回はないから…」

かすれた声ながら、

志乃は、嬉しそうだった。

紙袋を、香里奈に押し付けると、

「これに着替えて…」

香里奈は、トイレの中に入ると…

着ていたジャケットと、Tシャツを脱ぐと、紙袋内を確認した。

「?」

香里奈は、首を傾げた。




「やっぱり似合ってるわ」

トイレから出てきた香里奈の姿に、志乃は頷いた。
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