黄昏に香る音色 2
「これは…?」

香里奈は、洗面所の鏡に映る自分の姿を眺めた。

赤いドレス…

真紅のドレス。

志乃は、感嘆のため息をついた。

「昔から思っていた…」

志乃は、香里奈の後ろに立ち、

「あんたは…似てるわ」

「誰に?」

志乃の目が、遠くを見る。

「真紅の歌姫…河野和美。あんたのおばさんよ…」

「か、和美おばさん…?」

香里奈は、会ったことがない。

香里奈が生まれる前の年に、亡くなっている。

「あたしが憧れた…最高の歌手…」

志乃は、ドレス姿の香里奈のうっとりと見つめ、

「あたしが、ファンだったから…明日香先生が、あたしがステージデビューする時に、くれたの」

「ママが…」

「でも…まだ一度も着たことがない…。まだ、あたしには、その資格がないから…」

志乃は、悲しげに笑う。

「志乃ちゃん…」

志乃は、香里奈の両肩を持つと、

体を、トイレの外へ促した。

「香里奈ちゃんは、資格があるわ」

志乃は、ぽんと背中を押す。

「いってらっしゃい。みんなが、待ってるわ」

「志乃ちゃん…」

香里奈は、志乃の方に振り返った。

「さっさと行きなさい」

志乃は笑顔で、香里奈を送り出した。

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