黄昏に香る音色 2
歌姫
観客が、こちらを見ていない。

遠く離れたステージの音に、惹かれている。

明日香は、絶望を感じ始めていた。

どんなに吹いても、

誰にも届かない。

初めての感覚だった。

バックのミュージシャンも、冷や汗を流し、焦りを感じていた。

「これ程とは…」

ステージの袖で、サミーは唖然としていた。

何とか、意識を保とうとしなければ、

意識が、持って行かれそうになる。

アメリカで聴いたときより、数段凄くなっている。

成長している。

「啓介」

サミーは、遠くのステージを睨んだ。

「明日香…」

明日香の後ろめたい…
こんな音では勝てない。

苦しそうな明日香を、

サミーには、どうすることもできない。

サミーは、拳を握りしめた。
その時、サミーの横を、

赤い影が、通り過ぎた。

サミーは、横を見た。

そして、

目を丸くした。

「恵子…」

ちらっと見えた横顔は、遠い日に、

サミーが、出会った女に似ていた。

生まれたばかりの啓介を、アメリカまで迎えに来た…

一人の女。

若く美しい女。



香里奈は、楽器ケースを抱え、ステージに上がった。

真紅のドレスをなびかせて。

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