黄昏に香る音色 2
明日香は、自嘲気味に笑うと、

ゆっくりと、香里奈に近づいた。

「ママ」

香里奈は、満面の笑顔を明日香に向ける。

そして、

足元に置いてある楽器ケースを、明日香に差し出す。

少し驚きながらも、

明日香は、ケースを受け取り、

中から…トランペットを取り出した。

明日香は、今手にしているワウ・ワウ・ペダル付きのトランペットから、マウスを取ると、下に置いた。

そして、

懐かしきトランペットに、マウスをはめる。

「曲は?」

明日香の問いかけに、

「Like I Love You」

香里奈は、明日香に告げた。

それは、志乃と大輔が書いた曲だった。

それは…自分に音楽を教えてくれた先生であり…去っていったバンドメンバーに…

憎悪と寂しさ…

悲しさと、

自分達が、元気にやっているという報告を。



「OK」

明日香は、一言そういうと、トランペットに口づけをした。

暖かく、包み込むような音。

先程の香里奈と、同じ感触の音。


「これだ」

サミーは、何度も頷いていた。

バックが、明日香に続いた演奏を再開する。

香里奈は歌い出す。

暖かく、

穏やかな風が、吹き始めた。
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