黄昏に香る音色 2
「何をしにきた…」

まだ喘ぐ女は、歓喜の声を上げた。

さっきは振動だったが、

今は直接、浴びることができたからだ。

音だ…。

この音は…。

狂ったように、両手を天に向けた。

そこにいる者たちは…。

「チッ!壊れてやがる」

女を中に入れた男は、そう呟くと、女を離し、乱暴に床に投げ捨てた。

「仕方がないでしょ…」

奥の方から、ブロンドの髪を束ね、黒いスーツを着た女が、出てきた。

「直接、聴いてるんだから…」

ブロンドの女は、後ろを振り返った。

そこは、百人程が入るライブハウスだった。

そのステージの下では…



観客は叫びながら…狂っていた。

本能のまま…

快楽を楽しむ。

「あたしたちだって…これがなければ…」

ブロンドの女は、髪をかきあげた。

耳につけたヘッドホンなようなもの…。

「これをつけていても…体が、火照ってくるのに…」

ブロンドの女は、喘ぐ女をちらっと、蔑むように見る。

「こいつがしつこく、ドアを叩きやがるから!」

男は女を掴むと、無理やり立たす。

「聴きたけりゃー金」

男の肩に、ブロンドの女が手を置いた。

「ティア…」
< 29 / 539 >

この作品をシェア

pagetop