黄昏に香る音色 2
「香里奈…」

香里奈と志乃が、ステージに上がった瞬間、

いや、

志乃の姿を見た瞬間、

会場に、今日一番の大歓声がわき起こった。

「志乃だ!」
「志乃ちゃんだ!」
「志乃!」
「志乃ちゃん!大丈夫!」
「志乃!」

大声援が、会場にわき起こる。

「みんな…」

志乃は、手で口をおおい、
嬉しさから、涙を流した。

「ありがとう」

香里奈は、マイクを志乃に渡すと、

静かにステージを降りた。

志乃は、マイクを握りしめ、

「みんな、ありがとう…」

かすれた声が、さらに声にならない。

「志乃!」
「志乃!頑張れ!」
「大丈夫だ!」

志乃は涙を拭うと、

マイクをしっかりとにぎり、

「今は歌えないけど…絶対、次に、みんなと会うときは、歌います!」

志乃は、会場のすべての人を見回す。

「例え、声が出なくても…絶対!歌います!」

志乃は叫んだ。

そして、誓った。

歌い続けると。

観客の全員が、拍手する。

気づけば、向こうのステージのバンドも拍手していた。

志乃は初めて…

歌手であることを、自覚した。

才能に溺れた…今までの自分…。

今までは、本当の歌手ではなかったと。



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