黄昏に香る音色 2
「まだ…帰ってくるといっても…はっきりとした日は、決まってないから…。しばらくは、あたしと2人よ」

里美は、香里奈にウィンクをした。


「あたし…。この店の雰囲気は、好きなの」

香里奈の言葉に、里美は店内を見回した。

「昔に比べたら、変わったわね」

入口の前の長いカウンターに、右奥のステージ。



もう…

ダブルケイといわれたバンドは、存在しない。

里美が、初めてここに来たときに感じた暖かい空気…。

時は過ぎる。

里美が、音楽を教えているのも、昔の雰囲気を、取り戻したいだけなのかもしれない。

しかし、

志乃達の伝説が、多くの人を呼び、純粋に、音楽を習いに来る者は、少なくなっていた。

里美は今…

音楽を教えることを、休止していた。

休止していても、来る者は来る。

だけど、

誰も来なかった。

ここに来れば、志乃達みたいに、なれる。

誰もが。

そんなはずは、なかった。

いつしか、幻想とともに、
人は減っていった。

里美は、2人のママみたいには、なれなかった。

香里奈の祖母が、香里奈の母を、

香里奈の母が、

志乃を育てたようには…。




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