黄昏に香る音色 2
直樹が座ると、

「ああー!結局…明日香さんに、会えなかったなあ…会いたかったなあ」

祥子は、テーブルに頬杖をついて、ブーブー言った。

「仕方ないでしょ…忙しいんだから」

里緒菜が言った。

「でも、帰ったの〜昨日でしょ〜」

祥子はまだ、文句を言っている。



そんな話をしている間に、着替えた香里奈が、ステージに上がる。

暖かい拍手が、わき起こる。

香里奈は、頭を下げる。

衣装は、赤いドレスだ。

もちろん、和美の服。

カウンターで、ドリンクをつくっている里美は、

ちらっと、ステージ上の香里奈を見て、呟いた。

「まったく…衣装だけは、立派なんだから…」



香里奈は、ベースの阿部に近づき、曲名を告げた。

阿部が頷くと、

原田が、軽快なピアノを奏でる。

曲は、枯れ葉。

それも、晩年のサラ・ボーンのヴァージョンに近い…。

全体的に歌うというより、スキャットで叫ぶ。

まるで、声という楽器のように。



直樹は、ステージ上の香里奈を見つめていた。

それは、恋人を見守る…

やさしい瞳ではなく、

どこか悲しく…

寂しそうだった。
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