黄昏に香る音色 2
どうして…あなたは生きている
「失礼します」

久々に、扉を開き、中に入った

和也の目に、

会長室の中で、窓際に佇む…時祭光太郎の姿が飛び込んできた。

「仕事をくれてやる」

光太郎は、和也を見ずに、言い放った。

「ディスクの上に書類がある」

和也は、軽く肩をすくめると、ディスクに近づいていく。

書類を手にとり、

「ありがとうございます…助かります」

「お前とは、縁を切ったが…」

光太郎は、窓の外を見つめながら、

「才能のある者を、つぶすことはせん」

「才能ですか…俺にあるのか…」

和也は、書類を確認すると、

「有り難く、お受けします」

光太郎の背中に、頭を下げると、

「では…失礼しました」

出ていこうとする和也に、振り返らずに、光太郎は声をかけた。

「お前の学校に…高木優って、女はいるか?」

和也は、扉のノブに手をかけながら、

「いえ…知りませんが…」

「そうか…」

和也は、扉を閉め、

「知り合いですか?」

「取引先のお孫さんだ…」

「お孫さん?」

「大路に通っているらしい」

光太郎は窓ガラスに、微かにうつる和也を見ていた。
< 368 / 539 >

この作品をシェア

pagetop