黄昏に香る音色 2
墓は、一瞬にして、

花で覆われる。


「だけど…この世に溢れてる音は…」

明日香は、ティアとジュリアの墓を見つめ、

「あたしの憧れた音じゃない」


「音楽は…ある意味、商品だ。娯楽という…金儲け。今は、それが強い」

啓介も墓を見た。

「音楽は…芸術よ」

明日香の言葉は、

風に消された。


「今は…違うだろな。ただ…消費されるだけの商品だ」



「啓介」

明日香は思い詰めた瞳を、啓介に向けた。

そして、

「あたし…音楽活動をやめるわ」

啓介は、ただ明日香を見つめる。

「あたしは、歌をやめる」

明日香の言葉に、

啓介はただ…前に歩きだした。

「…迷う時は、やらなくていい…。絶対、出さなきゃいけない商品ではなく」

啓介は、ただ丘を下っていく。

「お前が…芸術だと思うなら…」

「啓介」

「その日まで、休め」

啓介は振り返り、

明日香を見た。

「日本へ…ダブルケイへ帰ろう。母さんの店へ」

「うん」

明日香は頷いた。

そして、

啓介のそばまで、駆け下りると、

啓介の手を、そっと握り締めた。
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