黄昏に香る音色 2
「読むよ」

放課後。

部室で、大欠伸をしていた中谷美奈子の前に、

数枚の原稿用紙が、差し出された。

「よろしくお願いします」

深々と、頭を下げたのは、

飯田直樹。

直樹は初めて、台本をいうものを書いた。

「…夕焼けの中、出会う男女の話か…」

美奈子は、熱心に、念入りに…

1つ1つの文字に、目を走らす。

「場面は、あまり変わらずに…渡り廊下をメインにして、物語を展開します」

「なかなか…良く書けてるよ」

美奈子は原稿用紙から、

顔を上げ、

「それにしても…何か、心境の変化でもあったのか?」

「いや…ただ…」

直樹は、自分が書いた原稿用紙を見つめ、

「俺も…自分で、世界をつくれるかなと…」

「世界?」

「本当は…そんな大層なものじゃなくって…」

直樹の顔を、美奈子はじっと見ていた。

「創造力なんでしょうけど…」

美奈子はやさしく笑うと、

「お前は…現実主義で、完璧過ぎるから…成長してよくなることを待てない」

美奈子はまた原稿用紙に、目をやり、

「今より、よくなりゃいい。成長と創造は、人がよくなる為に、大切なものだ」
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