黄昏に香る音色 2
商品価値
「転校してもらいます」

家に帰ってきた里緒菜を、

すぐに呼んだ母親は、そう言い放った後…ディスクの向こうから、ある企画書を差し出した。

ショックを受けている里緒菜は、何とか受け取ると、

「イメージソング?」

母親はかけていた眼鏡を外し、

「現代…消費産業を支えているのは…あなたたち、高校や、大学生よ」

母親はため息をつくと、

「一回一回の金額は少なくても、その年齢の使う人数、リピーター率は、無視できないわ」

里緒菜は、企画書をめくった。

「お父さんが、新たな企画として、音楽と食の融合ー若者をターゲットにしたオーディションを開催することになったの」

「イメージソングですか?」

「歌だけじゃなく、将来しばらくは、うちの広告塔になりえる歌手をつくること」

母親は、里緒菜から企画書を取ると、

「別に、一生じゃなくていいの。一年くらいでいいのよ。歌手なんて、そんなものでしょ」

里緒菜は、母親から視線を外した。

「また一年たったら、新しい歌手を選べばいいのよ」

何も言わない里緒菜に気づき、

母親は会話を止め、訝しげな顔を向けた。




「里緒菜さん!」

母親の荒げた声に、

里緒菜ははっとした。

< 481 / 539 >

この作品をシェア

pagetop