黄昏に香る音色 2
彼は、洋楽の昔の有名な曲…少しマイナーな曲などを

微妙なアレンジで変え、

アイドルに歌わせているだけだった。

日本人は、自国以外の音楽を聴かない。だから、パクりにも気付かない。

それが、全世界有数の音楽消費国でありながら、

本物を生み出せない原因の一つだった。


そして、矢野は…それで、金持ちになっているのだ。

「まったく、商品として申し分ない」

矢野が力説する…その後ろから、鼻で笑う声がした。

「あんたのつくる曲には…勿体無い。本物の歌手は」

矢野は振り返った。

「里美!」

スティックを持った里美が、歩いてくる。

「里美!お前からも言ってやってくれ」

里美は、ちらっと横目で、矢野を見、

「あんたに、呼び捨てにされる筋合いはないわ」

矢野は引きつりながらも、笑い、

「冷たいなあ…もと夫に対して」

そう…矢野と里美は、昔結婚していた。


里美は歩くことをやめず、志乃たちも追い越していく。

「先にいくわね」

志乃にそう告げると、通路を歩いていく。

志乃は、矢野や里緒菜の母親に、頭を下げ、

「残った5人は、矢野先生のお好きなようにして下さい」

志乃は、愛想笑いを浮かべながら、

また歩き出す。

矢野たちは呆然とし、何か言おうとしたけど、

言葉にならなかった。


< 504 / 539 >

この作品をシェア

pagetop