黄昏に香る音色 2
「それにしても…」

大輔は、前を歩く里美の背中を見つめながら、感嘆した。

「居合い切りといわれた…ドラムの切れは、健在だな」


かつて、存在したペパーミントというガールズバンドは、

日本をこえて、世界でも名前を知られていた。

その理由は、里美のドラムの音だった。

居合い切りのような刹那のスネア。

誰もが、里美の音を求め、内外からのラブコールはひっきりなしだった。

親友の明日香とは、対照的な音。

しかし、里美はいきなり、矢野と結婚して、

すべての仕事を捨てた。

バンドを、音楽を捨てるほどの熱愛だった。

でも、それはすぐに終わる。

矢野の裏切り。

浮気相手の妊娠により…。

矢野とは、わずか10ヶ月で離婚した里美は…

2度と音楽の世界に戻らなかった。

それなのに…。

「さっきの音…」

志乃は、里美の背中を軽く睨み、

「あたしのバックでは、1度も叩いてくれたことなんて…ないのに…」

里美が戻ってきた理由は、分かっていた。



志乃が、里美の携帯に電話したあの日。

志乃は、こう言ったのだ。

「これは…いずれデビューする香里奈の為にもなります」

と…。


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