黄昏に香る音色 2
直樹と里緒菜が演じる…物語。

演劇部の出し物を、香里奈たちに混じって、

明日香と啓介、里美も見に来ていた。



それは、

渡り廊下で繰り広げられる

淡い恋の物語。

明日香は、舞台を見つめながら、

自然と涙していた。

隣に座る啓介は、それに気づいたが、

気づかなかったように、視線を舞台に戻した。

それは、誰にでもある…青春の思い出。

もう…悲しいわけじゃなく、

ただ懐かしさに、涙するだけ。

黄昏に包まれたやさしさという…劇は終わった。

会場を後にしながら、

里美が首を捻りながら、言った。

「どこかで…きいたような…話ね」

「さあね」

明日香は、和恵の手を引きながら、

歩きだす。

もう涙は消えていた。

明日香は、空を見上げ、

心の中で呟いた。

(あたしは…あれからずっと…音楽を続けているわよ)


明日香は、すぐに前を向いた。

(これからも…ずっと)

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