黄昏に香る音色 2
広い屋敷の庭に置かれたテーブルに並ぶ、数多くの料理。

華やかな雰囲気が、少し息苦しい。

里緒菜は、次々に来客するVIPたちに紹介されながら、愛想笑いを浮かべる。

「我が一人娘です」

里緒菜の父が里緒菜を、VIPに紹介する。

「もう大きくなられて」

「お綺麗になられて」

里緒菜は制服から、白いドレスに着替え、お客様のお世辞に、深々とお辞儀した。

「本当…お綺麗ですわ。…もう高校生に、なられたとか…失礼ですが、どちらの学校に?」

「大した学校に、はいってませんよ…娘が望んだのですが、普通の公立高校です。普通の高校生活を体験したいと、自ら言い出したものでして」

里緒菜の父は困ったように、里緒菜を見た。

「どちらの公立で」

「大路学園高校です」




「奇遇ですなあ。うちの甥っ子も、その高校に通っております」

その声に、人々が騒めく。

会場の入り口から、白髪のタキシード姿の男が現れた。

「これは、時祭会長。わざわざお越し頂き、ありがとうございます」

時祭会長と里緒菜の父は、握手する。

「甥っ子さんが、娘と同じ学校とは…何たる偶然。まったく知りませんでしたよ」

時祭は笑いながら、

「名字が違いますから…。嫁いだ妹の息子ですので…」


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