黄昏に香る音色 2
明日香は、そのまま動けなくなる。

「お前の夫、速水啓介と…天城志乃の姉…天城百合子との間にできた子供だ」

明日香は力を込めて、振り返った。

「ちがう!和恵はあたしの子供だわ!」

会長は大笑いする。

「確か…お前に音楽を教えた女も、血のつながらない息子を育てたんだったな!その女から、変な病気でももらったか」

会長の笑い声が、部屋にこだまする。

明日香は、これ以上何を言っても無駄と感じ、黙ってドアを開いた。


「かわいそうな人…」

明日香は、静かに出て行った。

なぜか…

怒りが、わかなかった。

ドアを閉めながら、

明日香は、母の言葉を思い出していた。


「お父さんは悪くないの…ただ…かわいそうな人なのよ…」

明日香は、母の言葉の意味が、わかったような気がした。

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