黄昏に香る音色 2
「志乃ちゃん…」

志乃と会うのは、何年ぶりだろうか…。

和恵が産まれる、少し前だから、

もう7年近くなる。

あの頃、中学一年だった少女は、日本を代表する歌姫に。

モデルのようにスラッとしたスタイルは、同世代の女性の羨望の的だ。

「先生には…まずは、ありがとうと、言わないといけないですね」

志乃は、後ろにキョトンとして座る和恵を見た。

「姉の娘を、今日まで育ててくれたことに」

「そのことを、和恵に言ったの?」

「恐い顔しないで下さいよ。そこまで、無神経じゃないですから」

明日香は、志乃の肩越しの和恵を見つめた。

和恵は首を傾げた。

「いずれ…あたしが引き取ります」

「あの子が、望むならね」

明日香は和恵から、少し目を外した。

「だけど…あいつは許さない」

志乃は一歩、明日香に近づいた。

「先生は、ご存知なんですか?」

志乃は、明日香の顔を覗き見た。

明日香は訝しげに、志乃を見返す。

しばらく、時が止まる。

志乃は鼻を鳴らすと、

「あの男が生きてることを」
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