黄昏に香る音色 2
憎しみと怒り。

それだけが、志乃の体を震わせた。

ワナワナと震える志乃の姿に、明日香は哀れみを感じた。

「志乃ちゃん…」

「姉さんを殺しといて!ぬくぬくと生きてる、あの男を許さない」

志乃は廊下の壁を叩く。

明日香が、志乃に手を差し伸べた。

しかし、

志乃は、それをすり抜け、
歩き出す。

すれ違う刹那、明日香の耳元に囁く。

「さよなら、先生」

去っていく志乃。


明日香は、急いで振り返った。

「あの男が、あの人だとしたら…志乃ちゃん。あなたは絶対、かなわない」

志乃は振り返らず、せせら笑った。

「戦うことも、確かめることもしない女が、何を言う」

明日香と志乃…。

まったく違う二人が、すれ違った…

最後の時だった。
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