天空のｴﾄﾗﾝｾﾞ｛Spear Of Thunder｝

脆く

｢どうされました？｣


梓達が乗っている一般車両とは違う…豪華な客室に、1人腰掛けている少女の横の通路に、跪いていた男は、顔を上げた。

少し驚いた目を、主である少女に向けてしまった。理由は、簡単だった。


少女が、笑っていたからだ。

口に手を当てながら、クスクス笑う少女のあどけなさに、男は見惚れている自分に気付き、慌てて顔を逸らした。

｢別に…大したことじゃないから…｣

腰まである長い黒髪に、前髪を上げ、その利発そうなおでこが、強調されていた。

少女は、少し落ちてきた前髪をかきあげると、今度は口元を緩めた。

｢ただ…あまりにも、呑気だから…｣

少女の瞳に、赤い陰が落ちる。


｢それは…仕方ないかと…｣

男が何か言おうとしたのを、少女はかきあげていた手で制した。

少女の人差し指が、男の口をふさいだ。


｢誰が…聞いてるか…わからん｣

少女の射すような視線に、男は口を閉じた。


｢やつらは…13年前の爆弾で、死んだと思ってるからな｣

少女は、座席に座りなおすと、大きくもたれかかった。


｢あの爆弾には、大きな3つの意味があった｣

少女は自分の言葉に、一度鼻を鳴らすと、

｢一つは大義名分の…戦争を終わらすこと…そして、終わらせない為。二つ目は、明らかな実験。白人ではない日本人を使った人体実験。これには、少なからず人種差別がある｣

電車はまた…ﾄﾝﾈﾙに入った。反射的に、窓を見た少女は、広いおでこをちらっと確認した。



｢最後は……多分、落とした者達も、気付いてないが…日本人…いや、八百万の神…つまり、あたし達をあぶりだし…殺す目的。そして、あの土地に、生まれたであろう…ある方を、目覚める前に、抹殺する為｣