天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
男は黙って、少女の話を聞いている。


「しかし!やつらは、確証が取れていなかった!本当に…殺せたのどうかもな。それに、その土地である…確信がなかった」

少女は、フンと鼻を鳴らすと、座席に座りなおし、

「だから…第二候補の土地にも、落とした…」

少女は、また窓に視線を移した。

ただ海が、広がっていた。


「しかし……あれほどの人間を殺すとは…」

男は、ぼそっと呟いた。


「それも人だ。窃盗…詐欺…殺人……恐ろしい世界だといいながら…戦争は、殺した方より、殺されたものが、悪いのさ。負ける者がな」

少女は、席を立った。ちらりと、跪く男を見下ろし、

「お前は……我らの力を使ったら、戦争に勝てたと思っていたのか?」

少女の質問に、男は微動だに動かずに、こたえることはない。

「ナチスは…それを期待していたがな…」

少女は、男の横を擦り抜けていく。

「金髪碧眼のアリーア人種は、神から送られた賜物…だから、優等な白人が、有色人種を支配しなければならない…。その思想をもつナチスが、なぜ日本人と組んだのか?」

少女はにやりと笑い、

「それは、神がここにいたからだ!いずれ…優れた者だけの遺伝子を、人工授精によって…超人をつくる?……アハハハ!」

少女は、大笑いした。

「超人?人を超えたもの?…それは、我々のことか?愚かな!」

少女の細長い眉が、跳ね上がった。少女は、座席の間の通路を歩きだす。


「しかし…」

途中で、足を止め、

「一番愚かなのは…日本人だ。我々は、気付かなかった。ナチスの思想に、一番感銘し…つながっていたのは、アメリカだった」

少女は振り返り、跪く男の横顔を見た。

「つまり…この国に、味方などいなかったのかさ」


男は、顔を少女に向けた。

二つの視線が絡み付き…数秒後、男はおもむろに、口を開いた。



「…で、どちらに行かれるのですか?」

男の言葉に、少女は拍子抜けし、思わず大声を張り上げた。

「トイレだ!」

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