天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
昭和20年8月15日…日本の降伏より、六年後の昭和26年9月8日サンフランシスコ講和条約が調印され…

条約発効の翌年…昭和27年4月28日に、日本は占領から解放された。

その間にあった朝鮮戦争(昭和25年6月25日より昭和28年7月27日)により、日本は国連軍の補給基地とより、その戦争による特需によって、敗戦から復興する力を得たのだ。


有名な話がある。トラックなどの車が塗装もせずに、羽が生えた鳥みたいに、アメリカ軍に飛んでいき、中国も値段など関係なく、よこせ、よこせと催促していたと…。

兵器ではないが…日本は、戦争している両陣営から、儲けていたのだ。



梓達が旅立った時代は、高度経済成長に向けて、日本が…東洋の奇跡といわれた時期に突入する前夜祭のような時期だった。




そんな時代……それは、日本が日本でなくなる時代ともいわれた。





「雨か……」

ヒトヒトと降りしきる雨を、店の窓から眺めていた男は、ふうと息を吐いた。

いきなり、客足が途切れたと思ったら…雨だなんて。

男は、またため息をついた。


店をこの地に移転してから、十数年が経った。

じっと、窓に当たる雨を見つめてしまう。

昔は別に…雨だからといって、気分を害することはなかったが……。

あの日…窓に流れる黒い液体……そう黒い雨を見た時から、男は雨が嫌いになっていた。


(この汚れた世界では……雨は、汚れ過ぎている)

空の涙なんてものではない。空の排出物である。


「そうだな…。雨の中では、歩かない方がいい」

男は、雨の日にお客が入らなくても、仕方ないがないと思っていた。

(雨は…体に悪いからな)



「ありゃあ〜雨か…」

窓側の席に座っていたお客が、外を眺めていた。

「でも…大して降ってないし…濡れてもいいかな」

席を立ち、出ていこうとするお客は、傘を持っていなかった。

「まあ〜いいか」

お金を渡し、扉に手をかけたお客に、

「どうぞ」

後ろから、傘が差し出された。

「体に…悪いですから」

にこっと笑う男に、お客は傘を受け取りながら、言った。

「やさしいねえ〜マスターは…」

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