天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
傘を差し、出ていくお客を見送ったマスターは、誰もいなくなった店内に入ったはずだった。

「え」

少し素っ頓狂な声を上げた後、すぐにマスターは笑顔になり、

「いらっしゃいませ」

と頭を下げた。

どこから入ったか…わからない学生服の男の子が、立っていた。



「俺を見ても驚かないとは…。あんた…やはり、人間じゃないな。魔か?」


六席のカウンター。四人掛けのテーブル席が、二つ。

決して広いとはいえない店内の真ん中に、空牙は立っていた。


「魔……?それは、どういう意味でしょうか…」

マスターは、空牙の横を通ると、カウンターの席を引き、座るように促した。

「フン」

空牙は鼻を鳴らすと、カウンター席に座った。

マスターは、カウンター内に入り、

「ご注文は?」

空牙にきいた。

空牙はカウンターで、右腕を置くと、

「コーヒーを。多分、それが…この店の売りだろ?」

カウンター内は、少し高くなっているのか…大きく見えるマスターを見上げ、微笑んだ。

「なぜなら、一番匂いがいい…」


「ほお〜それはそれは…ありがとうございます」

マスターは、軽く頭を下げた。

コーヒーを入れる用意をしだすマスターに、空牙は言葉を続けた。

「だから…わかるんだ」

空牙は、口元に笑みを浮かべながら、マスターの瞳の奥を覗いた。

「この世界の魔は、人と交ざりあってるからなのか…あまり匂いがしない。だけど…あんたからは、周りよりも強い匂いを感じた…」

「そうですか…」

マスターは、コーヒーを入れることに集中していたからか…空牙の視線をまともに、見ていなかった。

コーヒーを入れ終え、空牙の前に置く時、マスターはその視線の鋭さに気付き、

思わず動けなくなった。


「あなたは……」

マスターは、絶句した。

空牙から漂う雰囲気に、マスターは、今まで会ったどんな者よりも、圧倒的な力を感じた。

「あなたは…何者ですか?」

空牙は、前に置かれたカップを手に取った。

匂いを楽しむと、ゆっくりとコーヒーを飲む。

そして、空牙はマスターに微笑んだ。

「俺は…バンパイアだ」


< 1,056 / 1,566 >

この作品をシェア

pagetop