天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「バンパイア……?」

マスターは、カウンターの向こうの空牙をじっと見つめた。

「そう…」

空牙はもう一口飲むと、一気に飲み干し、

「この世界では…吸血鬼と言った方がいいのかな?」

空になったカップを、マスターに差し出した。

マスターは、そのカップを受け取りながら、

「……だとしましたら…時間がおかしいのでは?それとも…雨が降ってるからですかね…」

マスターはカップを置くと、新しいカップにコーヒーを注いだ。

空牙はフッと笑い、 

「そうか…。この世界のバンパイアは、日光が苦手だったな…」

空牙は、前に出されたコーヒーを見つめた。

「真の闇は…日光に照らされても消えることは…ないさ」

空牙は、照明に照らされても、黒い液体を見つめながら、カップを口に近付けた。



「味を…変えたか……」

空牙は、少し驚いた。旨くなっている。


「このようなお味の方が…お好みだと思いまして…」

マスターは、先程のカップを洗いながら、こたえた。

空牙は、一口だけ飲むと、カウンターに置き……ゆっくりと顔を上げ、マスターの顔を見た。

「あんたは、人間じゃないな?魔……この国の言葉でいうなら、鬼か…妖怪か…」

マスターは、カップをふきながら、

「我々は…人と違って、この身体的特徴は、違います故に…どの言葉が、適切なのかはわかりませんが…鬼では、ありませんね」

マスターは、空牙の顔を見据え、

「鬼とは…もと人だった者。人が変化した者ですから」 

マスターの言葉に、空牙は笑い、

「だが…ここ最近、会った人間の中には、変化する者がいたが……あれは、鬼になるというより、目覚めたという感じだったが…」


「あなた…様は…」

マスターは、空牙をじっと見つめた。

空牙は、軽く肩をすくめると、

「まあ……どちらでもいいがな…」

空牙はゆっくりと、カウンターから立ち上がり、マスターに顔を近付けた。

「ああ…」

マスターの全身が、震えた。持っていたカップが落ちた。

「俺の質問にだけ…こたえろ」

空牙の瞳が赤く光った。


「はい…」

マスターは、素直に頷いた。



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