天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「おい!コーヒーをくれ」

「……」

「おい!聞いてるのか!!」

イラついたように、カウンターを叩いた響子の怒気に、

マスターは、我に返った。



「な…何!?」

意識を取り戻したマスターは、キョロキョロとカウンター席を確認した。

「どうした?」

カウンターには、響子しかいない。

その後ろに、性眼が立っていた。

「悟り…?……か」

マスターは意識を取り戻し、店内に目を走らせた。

彼女達以外いない。


「馬鹿な…」

夢でも見たのかと…マスターは思った。

ちらっと確認した外は、かんかんに晴れていた。

「雨……は…」


マスターの言葉に、カウンターを指先で叩きながら、響子は、

「雨……?我々は、数時間前に着いたが…雨など降っていなかったぞ」


「馬鹿な…」

マスターはカウンターから出て、扉を開けて、外に出た。

周りの家屋や、道路を見ても、雨が降っていた形跡がない。


「あっ!マスター」

店前で立ちすくむマスターに、少し前に傘を渡したお客が、走り寄ってきた。

「昨日は、ありがとうございました。助かりました」

お客は、マスターに傘を差し出した。

「昨日……」

マスターは傘を受け取りながら、呟いた。

お客は、笑顔をマスターに向け、

「今日は、ちょっと…店に寄れないので…また来ます」

頭を下げると、そのまま来た道を走り去っていった。

マスターは、お客の背中を見送った後…店内に戻った。

傘をぼおっと見つめるマスターに、響子が言った。

「どうした?狐につままれたような顔をして」

と言った後、響子は苦笑した。

「それは可笑しいかあ?かつて、妖怪の王といわれた…お前がな」


響子の嘲りに、マスターは肩で軽く笑うと、

「昔のことだ…。今は、しがない喫茶店の店主だ」

カウンター内に、戻った。

すると、カウンターの下に、割れたカップが転がっていた。

マスターはしゃがむと、割れたカップの破片を掴んだ。


(我から…1日も、意識を奪うとは……一体、何者だ?)

マスターの脳裏に、空牙の姿が浮かび上がった。


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