天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
響子は、マスターをじっと見つめ、

「まるで…この世界を変えろとでも…いいたいように…」



響子の言葉に、マスターは苦笑した。

「この国は、つい最近…壊れたばかりだ」


「人と交ざった我らの仲間も…ほとんどが死んだ」

響子は、唇を噛み締めた。

日本にいた魔は、人とともに生きることを決めた。

彼らは、人に化けるのではなく…一度、人の腹に入り…再び生まれることで、人の肉体を得たのだ。

転生とは少し違ったが、彼らは、人から生まれることにより、人の社会で生きていく覚悟を決めた。

だが…交わることのできない種もいた…。彼らは、人里を離れた。


交わることのできた者にも、誤算はあった。

生まれた子供に、そのまま記憶や能力をトレースしょうとしたが……

人の心は、予想外だった。

大部分の魔は、人の心の奥底に、自らのすべてを封印されることとなった。

人は、赤ん坊だった頃の記憶をほとんど持つことはない。

赤ん坊の頃…何を考えていたのか…伝えたり、残すことはできない。

こうして、魔は…消えていた。人の心の奥に。


それを引き出すことができたのが、響子であった。


響子が、伯爵として…戦前君臨できたのは、その能力故だった。

さらに、響子は自らの眷属が産んだ赤ん坊に、取り付くことができた。

今の体も、自分のオリジナルではない。




「その神を…奴らが狙っている?なぜだ?」

マスターは、響子にきいた。


「やつらは…中途半端だからよ」

響子は、マスターから視線を外し、カウンターの上で片膝をつき、頭を支えながら、

「食物連鎖の頂点に立つ人間を、捕食する立場にいながら…活動する時間が限られている」

マスターは眉をひそめた。今の言葉…似たような話をしたような気がしていた。

響子は、マスターの様子に気付かずに、言葉を続けた。


「やつらは…我らの神の力を奪うことで…活動時間を増やすことができる…」



「バンパイア……か」

マスターは、思い出した。

空牙の不敵な笑みとともに…。



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