天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「そう…バンパイア。人類と同じ姿をしながら…人ではない者…。いや、もしかしたら、最初の神が模したのは、人間でなく…バンパイアかもしれない」

「もしくは…人が、神を模した創られたならば…神とは、バンパイア自身かもしれない」

響子の言葉の後に、続けたマスターの言葉に、響子は苦笑した。

「狼王よ…。日光の下に立てない神などいるのか?」

「だから…彼らもまた…完璧ではない。世界に溢れる神の多さを知れば知る程…神は、真の意味での神はいないのでは、ないかと思うよ」

「なるほど…絶対的な神なら、1人で構わないと…」

響子は頷きながら、カウンターから立ち上がった。

そして、マスターの顔をじっと見つめると…、

「お前の心は、読めないが……考えてることはわかる」

響子は、マスターに背を向けた。

「我らだけで、何とかしょう…。邪魔したな」

響子が歩き出すと、性眼が前に出て、カウンターにコーヒー代を置いた。

木造の扉を開けて、去っていく響子を見つめながら、

マスターは少し目をつぶった。

(この国の平和を願ってきた。この国の人々の安全を……しかし……)

マスターは目を開け、

「私の愛した人達は、帰ってこなかった」

扉の上の柱に貼られた…数多くの写真を見つめた。

皆が笑い、店の前で…帰還後のコーヒーを飲みに来ることを約束し…戦地に向かった。

それから十年以上…誰も帰って来なかった。

若者が死に絶え…生き残った年寄りと、生きる為にアメリカに媚びてきた者達が教える社会に……日本はなかった。

マスターの瞳から、一筋の涙が流れた。

「我は今……彼の地にいるのか?」




今日は、お客が来そうにない。

マスターは、店を閉めることにした。





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