天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
授業が終わり、リズムを刻むように歩いていく響子の後ろに、性眼が現れた。

「悟様…。校長がお呼びです」

性眼の囁くような小さな声に、響子は足を止めず、顔を見ないで言った。

「学校では…佐藤と呼べ」

「わかりました」

性眼は足を止め、

「お嬢様」

深々と頭を下げた。



響子は肩を震わすと、足を止め、振り向いた。

「お嬢様もやめろ!」

性眼を睨むと、響子はリズムを速めながら、走るように廊下を歩いていった。


その間、性眼は顔を上げはしない。

響子の足音が聞こえなくなるまで、顔をあげることはなかった。




「――ったく……何用だ?」

梓の転校日に合わせて、無理やり編入してきた響子は、新館奥の職員室の隣にある校長室を、目指した。



「うん?」

中央館を抜け、渡り廊下を渡ると、響子は左に曲がった。

すると、目の前に異様な人物が二人立っていた。

立っているというより、少し屈んでいると言った方がいいのか……。

天井に背中が、ついているのだ。


職員室から出てきた男子生徒が、その二人組に驚きながら、響子の方に歩いてくる。

「外人さんは、でかいなあ〜」

と妙に、感嘆している男子生徒を無視して、響子は校長室の前まで行った。

まるで、左右を守る守護神のように立つ二人組は、黒いスーツに、黒いサングラスをかけていた。

「こ、こんな…兵器を持ち込みよって!」

響子は、校長室のドアを開ける為に、二人組の間を通った。

力任せに、ドアを開けると…拍手が響子を出迎えた。

「さすがは、元大日本特務部隊特殊課を束ねていた悟殿。動きが早い」

校長室には、校長はいなかった。

代わりに短髪のブロンドが、眩しい男が、奥にある茶色の机の向こうに、座っていた。

「いや…外務省にも、席を置いていたね。最初は、心を読む君の能力がわからずに、外交面では苦労したよ」

皮張りの黒椅子に座っていた男は、立ち上がり、

「まあ〜しかし…。結果的には、軍部の無能さによって…折角の君の外交能力も、生かされることはなくなったけどねえ〜」

男のかけたサングラスが、妖しく光った。


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