天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
そして、輪廻の目の前まで来ると、

「お前は何者だ?」

空牙は、輪廻の首筋に手を伸ばした。少し力を入れただけで、華奢な首はへし折れそうだ。

予想外の感触に、一瞬…空牙に隙が生じた。

「お前こそ…何者だ!」

輪廻の瞳が、赤く輝くと…いきなり空牙の体に負荷がかかった。

「こ、これは…」

空牙は思わず、手を離し…その場に片膝をついた。

空牙の着ていた学生服が、ぼろぼろになっていく。

「フン」

輪廻は鼻を鳴らすと、後方にジャンプした。

「え!?」

いきなり倒れた空牙に驚き、駆け寄ろうとする梓を、輪廻は右手を横に突き出して、止めた。

「近づくな!巻き添えをくうぞ」


空牙の足下のコンクリートが、腐敗していく。



「なるほど…」

空牙はフッと笑うと、おもむろに立ち上がった。

そして、輪廻を見た空牙の顔に、輪廻は絶句した。


「最近は…レア能力者によく会う」

空牙は、右手の人差し指と中指を立て、左耳にあてると、そのまま空を切るように、円を描いた。

すると、ぼろぼろになっていた学生服が、新品になった。

「時の重力…いや、時の流れを集めて…相手にぶつけることができるのか?この短時間で…」

空牙は、足下の腐敗した床を見て、

「二百年程か……人が老いるのには…十分か」

にやりと笑うと、顔を上げ、輪廻を見た。

「しかし…この俺には、通用しない…いや、短すぎる」

空牙が再び、輪廻に襲い掛かろうとした時、二人の真ん中に梓が、飛び込んできた。

「喧嘩は、よくなあい!」

両手を広げ、きりっと空牙を睨む…その瞳の強さに、空牙は心の中で、苦笑した。

(この攻防を見て…ただの喧嘩とはな…)

梓の感覚が、おかしかった。

(しかし!)

梓の後ろにいる輪廻は、ネクタイを硬化させていた。

そして、さらにその向こう…中央館に入った廊下の真ん中に、黒い影が立っていた。

全身真っ黒で、本当の影のようだが…にやけて歪む唇だけが、

ほんのり赤かった。

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