天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「防衛軍を支配していたのは…魔王だったとですから…」

「え」

アートの言葉に、ゾルゲは絶句した。

「解散する直前は、人の手に戻ったようですが…それも、一瞬で終わったと聞いております…」

「馬鹿な!」

ゾルゲは、持っていた帽子を落とし…そのことにも、気付かずに、

「カードシステムという…整合されたシステムの下!我々は、完全に機能していたはずです!」


「それは…幻想ですよ」

アートは胸ポケットから、一枚のカードを取り出した。

プロトタイプカード。

「そ、それは!」

ゾルゲは目を見開いた。

アートはカードを、ゾルゲに渡した。

震えながら、ゾルゲはそのカードを持ち、まじまじと見つめた。

無言になるゾルゲに、アートは言った。


「人は…今の方が、自由で豊かで、皆で助け合う心を持っています」



「プロトタイプ…カード……。実物は初めて見る…」

ゾルゲは、カードの表面を確認する。

「カードシステムに縛られていた昔よりも…今の方が…」


「アートさん…」

ゾルゲはカードを差出し、アートに返した。

「私が生まれた時代は…第一次魔大戦の前でした。魔に脅かれされながらも…数百の国が、存在する世界でした。国々は、それぞれに魔王軍と戦い…協力はありませんでした。それが…」

ゾルゲは、言葉を切った。視点が合っていない。ぶるぶると震えだした。

ゾルゲの目は、過去を映していた。

「魔王ライに、王座が変わった時…すべての国は戦う力を奪われ…ほとんどの国が、機能しなくなりました。私は、まだ子供でしたが…あの空を覆い尽くす…魔の大軍が、記憶から消えることはありません…」

魔王ライは、魔王レイを幽閉した後、配下の魔物達で、人の住む地域の空を覆い尽くして見せたのだ。

抵抗した国家には、天災そのものである二人の女神を全面に出して蹂躙した。

抵抗しなかった地域も、止まることない大地の地震が起こり、止むことない豪雨と雷鳴が、地上にいる人間を、3年間襲い続けた。

当時、存在した元老院は、何とか…この地獄から逃れようとしたが…方法はなかった。




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