天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
(斬れ)

と命じたはずだったカレンの体は、思考と逆こうして、後ろへと走りだしていた。

先程カレンの横を通り過ぎたサラマンダーは、カレンの住む町を燃やし尽くしていた。

逃げるカレンは、自分の家が燃えているのを見て、

やっと意識が体とシンクロした。

「お母さん!お父さん!」


カレンは、ブラックカードを取り出すと、炎に包まれた家の中に、テレポートした。




すべてが燃え尽きようとしている家の中で、夕食が並んでいたであろうキッチンのそばで、母親と父親は倒れていた。

「お母さん!」

母親を抱き起こすカレンに、炎に包まれている父親が言った。

「なぜ、戻ってきた!早く…逃げろ…」

それが最後の言葉となり、父親は灰と化した。

「可憐……。これを…」

母親は、何かを持っていた。革のケースだ。

「ここに…あなたを導く…道が…」

母親は、ケースを無理矢理カレンに押しつけると、手に隠し持っていた魔法の棒をカレンに向けた。

「あたしの娘…生きて…」

灰になる寸前、母親の手から光が出ると、その光はカレンを包むと、強制的にどこかへ飛ばした。



「お母さん!!!」

カレンの絶叫も虚しく、強制的に飛ばされた場所は、町から遠く離れた島――西表島だった。

自然の美しい砂浜に、降り立ったカレンは砂浜に、崩れ落ちた。

サラサラな砂を握り締め、嗚咽のような声を上げて泣き叫ぶカレンを、慰める者はいなかった。

ただ母親に最後に渡されたケースが、押し寄せる波に打たれていた。

「あたしは、また…守れなかった」


ブラックカードを確認し、再び町に戻ろうとしたが、足が震えていた。

両親の死のショックと同じくらいに、先程の魔物の恐怖が、体にこびりついていた。

それを拭おうとするが、すぐには拭えない。

立ち上がろうとして、足がもつれ、倒れたカレンの指先に、ケースがあった。

「母さん…」

カレンは、ケースを手にして、引き寄せた。

そして、最後の母親のメッセージを読むこととなる。

< 1,188 / 1,566 >

この作品をシェア

pagetop