天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
アステカ王国がある海域から離れ、アルテミアは一気に南下すると、赤道をこえ、南半球のある無人島に、降り立った。

海岸のそばに生える椰子の実の下に、美奈子を横たえると、アルテミアは波の狭間に1人立ち、日が落ちた真っ黒になった海を見つめていた。

月に照らされて、後ろにある島の緑より、海面が明るいことに、アルテミアは少し口元を緩めた。

綺麗とか、可笑しいと思える心の余裕が、何より可笑しかった。

だけで、そんな余裕を自分に与えてくれた存在は、今…。

アルテミアは振り返った。

「目覚めたか?」

後ろに立つ自分に、笑いかけた。 

「アルテミア…」

なぜこんなところにいるのかという疑問よりも、僕はここにいる理由に、唇を噛み締めた。

「僕は…」

「赤星」

アルテミアは、僕に微笑みかけた。

「明菜を見て…動揺して」

「赤星…」

「また、精神攻撃にやられた…」

僕は悔しくて情けなくて、涙もでなかった。

(僕は…世界を、あんな結果にさせるわけにはいかないのに)

目をつぶると、瞼の裏に滅ぶ人間の姿が浮かぶ。

後悔と懺悔に苛まれている僕から、アルテミアは海へと視線を戻すと、

「目や耳…脳へと直接影響を与える攻撃を、得意とする者は多い」

アルテミアは、言葉を続けた。

「しかし…それは、あたし達バンパイアもそうだ。最近、血を吸ってないがな」

苦笑すると、アルテミアは振り向き、僕に全身を晒した。

月光に照らされて、アルテミアは輝いて見えた。

「お前は、そんな攻撃は嫌いだろうな。誰かを支配するなんて、お前は嫌いだろうな」

「アルテミア…」

「だけど…こんなにショックを受けても、どんなに汚い手を使われても、お前はそんな力を返さなければならない」 

アルテミアの瞳が赤く光る。

「この解放状態こそが、あたし達の力が使える状態だけでなく、瞳からの攻撃を防ぐこともできる。これからは、つねに戦う時は、この状態になることだ」


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