天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}

堕ちた女神

あたしが脱走して、数日が経った。

すぐに追っ手が来るかと思われたが、

誰とも遭遇することなく、魔界を抜けることができた。

ついこの前まで、魔界を出るのに、数秒くらいだったのに…今は、丸五日はかかっていた。

途中、雑魚の魔物に会ったが、チェンジ・ザ・ハートを使い、何とか倒すことに、成功した。

血を飲めば、力は回復するだろう。

しかし、あたしはそれをしなかった。

雑魚に苦戦するという屈辱よりも、今の自分の弱さを恥じた。

魔界は、城から離れると殆どが緑で覆われており、木の実や果物が溢れていた。

あたしは、それを食らいながら、魔界の出入口を目指した。


実は、あたしを探す追っ手は出ていたのだが、

まさか、あたしが女神の肉体を手放しているとは思っていなかったようだ。

天空の女神は、もうとっくに魔界を離れ、人間界に潜り込んでいると思われていた。

だから、捜索隊は人間界に、放たれていた。

あたしが率いていた天空の騎士団がメインとなり、世界中のあらゆる空を飛び回っていた。

そんな中で、未だにあたしは、魔界を走っていた。

魔力を失ったあたしに、魔神達が気付くはずがなかった。

あれ程強力だった魔力が、なくなっていると誰が思おうか。

知性もない下等魔物と、戦いながら、あたしは幼き頃、お母様に教えて貰ったことを思い出していた。

それは、戦い方だ。

雑魚でも、一撃喰らったらへし折れそうな華奢な体でも、当たらなければいい。

(動きが見える!)

五メートルはある猿に似た魔物の機敏な動きも、あたしには読むことができた。


チェンジ・ザ・ハートをトンファーや槍に変えながら、巧みな動きで、あたしは魔物を仕留めた。

昔なら、指先で倒せた魔物を、頭を使い倒して行く。

この日々が、あたしを戦士として、成長させたけど、

そう心から思えるのは、随分後の話になる。

あたしが、肉体を失い、

その為融合した男と出会ってからだ。


< 1,235 / 1,566 >

この作品をシェア

pagetop