天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「うわあああ!」

怒りと悲しみが、僕を混乱させ、理性を吹き飛ばしていた。

アルテミアから放たれた二本の渦巻きは、僕を絡めとるように巻き付き、海中で激しく回転させた。


「赤星!」

アルテミアが腕を交差させると、渦巻きはまるで遺伝子の螺旋のような形を取った。

「頭を冷やして、冷静になれ!」

アルテミアの思念が、水中でも僕の頭に響いた。

だけど、僕には聞こえない。

水蒸気はとめどもなく、僕の体から発生し続けた。

「うおお!」

水中でありながら、雄叫びを上げた僕の体が、激しくのたうちまわる渦の中で、止まった。


そして―――。





月が昇った夜空に向かって、水柱が上がった。

まるで、ロケットの打ち上げたの如く天に上がった水柱の中から、アルテミアの体が飛び出してきた。

「な」

絶句するアルテミアの体を、水中から伸びた三本の爪が貫いていた。

気を固めてつくった体とはいえ、痛みは感じられた。

「そ、そんな馬鹿な…」

空中に飛び上がったアルテミアを串刺しにした爪は、すぐに水中に戻った。

「この力は…」

アルテミアの手先や、爪先が消えていく。



「赤星…」

四散しながら、消えていくアルテミアの体が自由落下で水面に落ちた。その衝撃で、まだ形を保っていた胴体が、砕けた。

首だけになり、海中に沈んでいくアルテミアは、自分とは逆に空に向けて上がっていく黒い物体を、消えていく瞳がとらえた。

(駄目だ…)

もう口も消えていた。

(赤星…)

僕の体に戻ろうとしたが、今の僕は、アルテミアの魂すらも拒否していた。



(こんなところで…あたしは…)


瞳もなくなり、闇がアルテミアを包んだ時、


海中でありながら、アルテミアの体を包む光があった。



(なに!?)

結界が、アルテミアを包んでいたのだ。


「アルテミア様…」

アルテミアの頭に、声が響いた。

「…今、あなた様にお返し致します」
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