天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
屋根の上を止まることなく、駆け抜けると、

九鬼は、人気のない公園の滑り台の裏に着地した。


「お見事!」

着地と同時に、後ろから声をかけられ、九鬼は舌打ちした。

「あの平和な世界で、よくここまで…鍛えたものですね」

感心したような声に、九鬼は振り向くと、睨んだ。

「相変わらず…悪趣味ね。あたしの後ろを敢えて取るなんて」

九鬼の言葉に、後ろに立つタキシード姿の男は肩をすくめ、

「私はどこでも、出現できますけど…後ろから、声をかけるのが好きでして、悪趣味と言われても、変える気はございません」

慇懃無礼に、頭を下げた。

そんな男の様子に、九鬼は呆れながら、これ以上責めるのをやめた。

「まあ〜からかうのも、これくらいにしまして…」

男は頭を上げると、少し背中を反らしながら、言葉を続けた。

「女神から、伝言です。あなたのお探しの人物のうち、お二人は確認できました」

「2人…誰と誰?」

眉を寄せた九鬼に、再び頭を下げると、男は顔を地面に向けたままこたえた。

「赤星浩一と、中山美奈子でございます」


「赤星…浩一!」

その名前に、九鬼の全身が震えた。

そんな九鬼の様子を感じ、男は口許を緩めながら、

「そうでございます」

ゆっくりと顔を上げた。

「あなた様の友人である赤星綾子の…兄でございます」


「綾子…さん…」

九鬼の声も震えていた。

赤星綾子。

九鬼とは育った環境も、歳も違ったが、固い絆で結ばれた間柄だった。

そんな綾子が、あの日…いなくなった。
自宅を訪ねても、母親は綾子を…いや、子供達の記憶を失っていた。

短大を出て、綾子は就職活動をしていた。

しかし、綾子がいたという記録はすべて消えていた。


「仕方がありませんよ。彼女は、あなた様が敵対していた闇の存在の女神となったのですから、あなたに話すわけがありません。例え…親しくとも」
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