天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「乙女ブラック!警察が来たよ!」

嬉しそうに、女の子が報告すると、九鬼は女の子に微笑んだ。

「早く早く!あのねえ!魔物は、乙女ブラックが倒したんだよ」


九鬼は女の子を見つめながら、足に力を込めた。

「さあ…どこだ!」

横目で、凄んでみせた。

「て、天空の女神は…恐らく…」

魔物が言葉を続けようとしたとき、

タキシードの男が叫んだ。

「九鬼様!飛べ!」


「え?」

九鬼は振り返るよりも、速く空中で飛び上がっていた。

恐らく…その判断まで、一秒もない。

タキシードの男の叫びを聞いて、刹那の時。



九鬼は、公園だった場所を見下ろせる場所まで飛び上がっていた。


「そ、そんな…」

九鬼が飛び上がると同時に、凄まじい光が足下を通り過ぎた。

その光は、公園全体を抉り、さらに装甲車を…その向こうの公園も、その先のビルをも、一瞬で消し去っていた。

「馬鹿な」

飛び上がり、すぐに着地した九鬼は見たものは、まるで巨大なブルドーザーで一気に突貫工事を行ったように見える…抉られた道。

「な、何が…」

九鬼の脳裏に、女の子の笑顔が浮かんだ。

「あの子は!?」

女の子の安否を確認しょうとした九鬼の耳元に、タキシードの男の震える声が飛び込んで来た。

「そ、そ、そ…そんな…ど、どうして、ここに」

タキシードの男の声に、足を止めた九鬼。

いや…

足を止めたのではない。止まったのだ。

足だけでなく…鼓動も、すべてが…。

九鬼は絶句した。

もし相手が、殺る気だったなら…九鬼はもう死んでいた。

何とか数秒で、体の動きを取り戻した九鬼は、急いで振り返った。




「!?」

ニ百メートル程向こうに立つ人物に、九鬼は唇を噛み締めた。

障害物はないが、表情もわからない相手から発する殺気だけで、九鬼の動きを奪ったのだ。


「あり得ない…こんな所に…魔神…。そ、それも!騎士団長が」

タキシードの男の震えは、尋常ではない。

九鬼もまた…初めて純粋な恐怖を感じていた。

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