天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「脆い…」

拳に何の抵抗も感じなかったサラは、人間の体の弱さに憐れを覚えた。

が、その感情は、一瞬で否定された。

吹っ飛んだと思った九鬼の体は、空中で回転すると、十メートル向かうに着地したのだ。

「ほお」

サラは少し、感心した。


地面に降り立った九鬼はすぐに、膝を落とした。

(完全に威力を…相殺したつもりなのに…)

サラの拳が決まると同時に、拳を動きに逆らわずに、後方にジャンプし、さらに体を回転させることで、衝撃を逃がしたはずが…

戦闘服の鳩尾の辺りに亀裂が走り、全身が痺れていた。

(それに…先程の光線を放たれていたら…)

九鬼は、消滅していた。

直接攻撃だったから、何とか体術で耐えることができたのだ。


「九鬼様!今の内です!逃げるのです!全力で、逃げたら…何とか命だけは」

タキシードの男の言葉に、九鬼は鼻で笑った。

「逃げるか…」

九鬼は痺れがましになると、体勢を立て直し、再び構えた。

「言ったはずだ。乙女ブラックに、逃げるという言葉はない!」

九鬼は、前方のサラを睨んだ。




「面白い!」

サラは自らの拳を見つめ、もう一度握りしめると、九鬼に付き出した。

「お前のような者がいるから…人間は面白い!」

サラの頭から、突き出た二本の角。

一本は折れており…折れている角が光だした。

「疼いておるわ!貴様は、あやつと同類!」

サラは、嬉しそうに笑った。


「参る!」

九鬼は、両足に力を込めた。

「九鬼様!あなたは、勝てませぬ!」

タキシードの男の絶叫に、九鬼は夜空に飛び上がりながらこたえた。

「勝てないのは、分かっている!だからこそ!知りたいのだ!絶望的でも!その差を!」

九鬼の体が、月の下に舞う。

勝てない相手だからこそ、今できる最高の技を。

「月影キック!」

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