天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「だ、騙したのか?」

何とか地面の土を爪で、抉りながら、立ち上がった九鬼は、

タキシードの男を睨んだ。


「騙してなど…おりません」

慇懃無礼に頭を下げたタキシードの男は、

「魔物を倒す力は、与えました。ただ…それが、女神復活の為に、利用しただけです」

にやりと、口元を緩めた。


「貴様!」

立ち上がり、パンチを叩き込もうとしたが、

タキシードの男は煙のように、消えた。


「申し訳ございませんが、もうあなた様の相手をしている場合では、ございません」

声だけが、ジャングルの中でこだました。


「偽物とはいえ…乙女ソルジャーの力を失ったあなたが、このジャングルから生きて出れないでしょうが…」

声は笑っていた。

「健闘を祈っております!」




「くそ!」

もう気配もしなかった。

九鬼は、夜のジャングルに生身のまま取り残されたのだ。

「チッ」

舌打ちすると、九鬼は周りを見渡し、状況を判断した。

戦う術は失ったが、魔物の気配を探ることはできた。

何匹かいる。

隠れようにも、先程までの戦いで染み付いた魔物の血の匂いを消すことはできなかった。


(だが…威嚇にもなる)

九鬼は、戦う術を失ったことを悟られないように、ジャングルを走り出した。

まずは、視界と足下の悪いジャングル内から、出ないといけない。

途中、好奇心の強いやつか…威嚇が通用しない魔物に会わないを願いながら、

九鬼は走った。


小一時間、魔物に会わずに走っていると、

先の方から血の匂いがした。

それも、強烈な匂いだ。

九鬼は走るのを止めた。

この匂いは、隠れ蓑になる。

ゆっくりと木々の間に隠れながら、九鬼は前を伺った。

ジャングルは、もうすぐ抜ける。

匂いは、抜けたところから漂っていた。

九鬼は、木々の影に身を隠すと、ジャングルの外を見た。

そこには、無数の魔物の死骸が転がっていた。


しかし、それよりも、 九鬼の目を奪ったものは、

月夜に舞う二つの影だった。

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