天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
膝をついた乙女ブラックの全身に、亀裂が走る。

「闇を照らす月の…力」

卵の殻が割れるように、乙女ブラックの表面が砕け散った。

すると、屋根の上には全裸の女が座り込んでいた。

そばかすだらけの顔を、九鬼に向けると、

女は思い切り睨み付けた。

「どうして…あんたは、人気があって!どうして、あんたはもてるのよ!」

そう叫んだ女の瞳から、涙は流れなかった。

急激に、かさかさに乾いていく皮膚は、水分はなくなっていき、

ひび割れていく。

「そ、そんな~あ、あたしは」


肌の色も、おかしくなってきた。

「あたしは…ただ」

手をあげようとするだけで、指が崩れていく。



「い、いやああ」

絶叫しょうとしたが、顎が崩れて話せなくなった。


乙女ブラックは、九鬼に戻ると、女の前に立った。

体が、砂のように崩れ、姿が留められなくなっていた。

九鬼は、見下ろしながら、口を開いた。

「闇に、魅せられたものは…ただ灰になるだけだ」

哀れむ九鬼の表情に、女は崩れるスピードが速まっても構わなくなったのか…目で笑った。

それは、声に出さなくても、九鬼には伝わった。

「お前も、本当は…わたしと同じだ。ただ…お前は、月に選ばれただけだ」



ただ灰と貸し、風に飛ばされていく。

その灰が、すべてなくなる刹那…九鬼は最後の声をきいた。

「本当は、お前は月の使者なんかじゃない!お前こそが、灰になるべきなのよ。いずれ、お前は死ぬ!月の明かりによってね!無惨な姿をさらして」

その言葉に、九鬼はフッと笑った。

屋根から飛び降りると、用具室に背を向けて、歩きだした。

「そうなるかもしれない…。だけど…」

九鬼は前方に広がる闇を睨み、

「無惨に殺されたとしても…その数秒前まで、あたしは貴様ら、闇と戦う!」

立ち止まり、

「それが、あたしの生き方だ」

月を見上げた。

ただ…浮かぶ…綺麗な月を。
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