天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「病院?」

九鬼は、巨大な市民病院の前にいた。

病院で、待ち合わせとは聞いたことがない。

(まあ…相手は、闇だが…)

九鬼は、無意識にチェックのスカートのポケットを確認した。

そこに、乙女ケースがあったからだ。

学校が終わって、まっすぐにここに来た為、ちょうど夕暮れと重なった。

白い建物が、夕陽に照らされ…1日の最後を飾っていた。

赤と黒…。

巨大な建物が落とす影が、濃い。昼間は気づかない…影という闇が、浮き彫りになる。

もうすぐ…すべてが闇になる。

九鬼は、病院前の駐車場を横切ると、来客用の出入り口に向かった。



一階フロント前は、受付が終わったのか…誰もいなかった。

というよりも、病院自体に人がいないように思えた。

だけど、九鬼は気にせずに、フロントを突っ切ると、

まっすぐにのびる廊下を歩き出した。

右にある窓から、夕陽が差し込み、赤と黒の縞模様のように見える廊下を、ただ歩く。

横から見ると、九鬼の体もまた…光の縞模様があるように感じられた。

廊下を半分くらい過ぎると、赤は急速に消えていく。

一瞬の最後の輝きを、九鬼の横顔に浴びせると、

闇がすべてを支配した。

廊下に、電気がついていない。


『ううう』

嗚咽のような泣き声が、闇の中から、聞こえてきた。

九鬼は足を止めると、廊下の先の闇を凝視した。



何かいる!

九鬼は一瞬、構えそうになった。

しかし、泣き声が聞こえた方からは、殺気が感じられなかった為、警戒しながらも摺り足で、廊下を歩き出した。

いつでも、蹴りが放てる体勢を取りながら…。



「!!」

いつのまにか、泣き声は九鬼の後ろに移動していた。

はっとした九鬼が、振り返ろうとした横目に、

うずくまる人影が映った。

真っ暗な廊下に、さらに暗い影が膝を抱えて、うずくまっていた。

九鬼はそれを見て、蹴りを放つ体勢を解いた。

なぜなら、影は小さな女の子だったからだ。
< 1,312 / 1,566 >

この作品をシェア

pagetop