天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「あなたは?」

九鬼は、膝を抱えてうずくまる女の子に声をかけた。

すると、女の子は徐に顔を上げた。そして、そのあどけない顔を、九鬼に向けた。

泣いていた。

真っ赤に腫れ上がった女の子の瞳の痛々しさに、思わず九鬼は、顔をしかめた。

そんな九鬼に、女の子の口を開いた。

『あたしは…死んだの?だけど…あたしの体は、生きてるの…』

その言葉を、九鬼は理解できなかった。

「体は…生きている?」

女の子はこくりと頷くと、

『体を取られたの…もうあたしのものじゃないの』

また涙が滲んでくる女の子に、九鬼はとっさに手を差し伸べたが、


触れることはできなかった。

指が、女の子の涙を拭うことなく、

目を突き抜けた。

「な」

絶句している間に、女の子の姿は消え、

廊下に灯りがついた。



九鬼は突然の光に、目を細めながらも、女の子がいた空間を見つめた。

「幽体か?」

九鬼は、空間に差し伸べた手を握り締めた。

(何かを伝えようとしていた)

それは、確実だった。

九鬼は、体を廊下の先に向けると、再び歩き出した。

九鬼の足音だけが、廊下に響いた。

一番奥にあるエレベーターに、乗り込む。

ドアが閉まるまで、目の前にある窓ガラスの向こうに、姿を見せ始めた月が、見えた。

その輝きを、目に焼き付けながら、九鬼は一度、呼吸を整えた。

目を瞑り、

ドアが閉まると同時に、九鬼は目を開けた。

エレベーターは、目的地がある六階に止まった。

ドアが開き、ゆっくりと歩きだした九鬼は、空気の淀みを感じ取った。

呼吸を整えていたから、すぐにわかった。

異様な空気の濃さを。

まるで、酸素カプセルにでも入ってるような感じだ。

九鬼は、空気の壁を掻き分けるように、廊下を進んだ。

エレベーターのあるフロアから右へ曲がり、さらに十メートル程進んだ後、突き当たりを右に曲がった。

そして、またまっすぐに歩くと、行き止まりになる。
そのすぐそばに、病室はあった。

目的の場所が!


九鬼はノックをすると、返事を待たずに、ノブに手をかけた。

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