天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
九鬼の体を、黒き光が包む。

顔にかかった眼鏡を気にすることなく、九鬼は床を蹴ると、女の子に体当たりを食らわした。

「クッ」

予想をこえた九鬼の速さに、女の子は避けることができなかった。

女の子と九鬼は病室の窓を突き破り、6階から落下していく。

真上に浮かぶ月に照らされて、九鬼の体が輝く。

女の子の背中から、蝙蝠の羽が生え、空中に浮かんだ。

窓ガラスの破片とともに、着地した九鬼の姿が変わっていた。

「闇夜の刃…乙女ブラック…」

黒い戦闘服を身につけた九鬼が、月下に立ち上がった。


「乙女ソルジャー!」

女の子は苦々しく、空中から見下ろした。

すると、ブラックの姿が消えた。

「!?」

驚く女の子の視線の端が、光るものをとらえた。

「見参!」

空中にジャンプしたブラックの手刀が、女の子の頬を切り裂いた。

一瞬光ったのは、ブラックのかけている眼鏡の反射だった。

「き、貴様!」

女の子の頬から、血が流れた。

ブラックは再び、地面に着地した。

「よ、よくも!我の体を!」

怒りの形相で、ブラックに向けて、落下してくる女の子。

ブラックは、女の子に背を向けていた。

「殺しても!償えぬわ!」

女の子のすべての指の爪が伸びて、ブラックを後ろから貫こうとする。

ブラックは後ろを振り向くことなく、目を瞑っていた。

「死ね!」

爪が背中に突き刺さると思われた刹那、

ブラックの姿が消えた。

「何!残像か!」

女の子の真下に、倒立の形で両手を地面に付け、足を畳んだ体勢のブラックがいた。

「ルナティックキック…ニ式!」

足を伸ばす力と、両手で地面を弾く力がバネとなり、女の子のお腹辺りを突き上げた。

空中でぶっ飛び女の子を確認し、ブラックは体を丸め、足から地面に着地すると、再びジャンプした。

「ルナティックキック!」

蹴りを喰らったが、何事もなく地面に着地した女の子に対して、右足を相手の首筋に叩き込んだ。

ラリアットを腕ではなく、足でする。それが、ルナティックキックである。

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