天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
だが、

ふっ飛んだのは、女の子ではなく…乙女ブラックの方だった。

まるで、鉄柱に蹴りを入れたように感じながら、ブラックは弾かれた。

(乙女ブラックになってなかったら、足のすねが砕けていた)

ブラックは着地すると、激痛が走る右足を見た。



「あははは!闇の魔獣デーテに、たかが蹴りごときで倒せると思ったか!」


「魔獣デーテ…?」

ブラックは激痛を堪えながら、目の前に立つ女の子の姿をしたデーテを凝視した。

爪が異様に長い以外は、普通の女の子と変わらない。

しかし、瞳が赤く輝き…全身から発せられる気が、夜の風景よりも黒く…まるで生きているように質量を感じさせた。

「闇か…」

ブラックは左手を突きだすと、右手を握り締めた。

足の痛みはとれていないが、回復を待っている余裕はない。

「あらあ~!なんて、せっかちな子なんでしょ!やっぱり男手で育てられたからかしら?」

デーテの声が、変わる。

攻撃の体勢をとっているブラックに、肩をすくめて見せ、

「あなたを呼んだのは、戦う為じゃないのよ。やっと家族で過ごせる時から来たから、知らせようと思ったのに」

残念そうに、首を項垂れるデーテに、ブラックは眉を寄せた。

「家族で過ごすだと!?」

「そうよ」

デーテの表情が、温和になる。優しい瞳が、いとおしそうにブラックを見つめていた。

「ふざけないで!どうして、今更!」

ブラックはなぜか…少し動揺してしまった。

その理由はわかっていた。

家族という言葉が、ブラック…いや、九鬼の心を震わしたのだ。

それは、九鬼が求め…夢見たものだった。

九鬼は、家族の温もりを知らない。


しかし!


九鬼は唇を噛み締めると、前に出た。

「ふざけるな!」

だからと言って、突然現れた魔獣となった母親に、靡く訳がなかった。

九鬼には母親の温もり…顔も記憶さえもない。

夢と現実は、違う。

乙女ブラックは、正拳突きをデーテに叩き込んだ。

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