天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「オホホ!」

高笑いしたデーテは、月を見上げ、

「美しき…嫉妬すら覚える月よ。あなたの戦士の最後をただ、天から見ているがよいわ」

両手を広げた。





「か、勝てない」

変身が解けた九鬼は生身のまま、背中から地面へと激突した。

全身を貫く痛みが、九鬼を動けなくしていた。

「折角…力を手に入れたのに…闇を切り裂く力を…」

九鬼の目に、上空に浮かぶ月が映った。

無意識に、手が月を掴もうとする。

「もっと…あたしに力が…」

九鬼の脳裏に、銀色に輝く力が浮かぶ。

「…あれば…」

後悔しかけた九鬼の頭に浮かぶ映像が、広がった。

笑顔で、九鬼に微笑む祖父。彼は…血の中に沈んでいく。


「お爺様!」

その映像に、九鬼ははっとした。

それは、最後の祖父の顔だった。。

「あ、あたしは…何を」

九鬼は反転すると、両腕に力を込めた。

「何を…甘えている!」

九鬼は顔を上げ、歓喜の表情を浮かべているデーテを睨んだ。

「あたしは…力をもう得たじゃないか!」

九鬼の脳裏に…無惨に殺された人々の映像が甦る。

「何もできなかった…あの頃に較べて…」

九鬼の瞳から、涙が流れた。

「何を…あたしは甘えているんだ。これ以上、何がほしい!他から、力を与えられて…。ただ…月から、力を貰ってるだけのあたしが!」

九鬼は、立ち上がった。

「弱いのは、あたしのせいだ!あたし自身の弱さ!何の努力もしないで、他者から与えられた力だけを、望むのか!」



「ほお~まだ立てたのか?」

少し驚いたデーテは、九鬼の涙に気付き、笑った。

「ハハハ!泣いてるか!月の戦士が!」

その嘲りに、九鬼は涙を拭うことなく言った。

「これは、悔し涙だ!甘過ぎる己自身への!不甲斐ない自分自身への!」

九鬼は、乙女ケースを突きだした。

「装着!」



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