天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「おい、おい」

明かりが点いた20畳くらいの部屋に入った男は、肩をすくめて見せた。

「俺の相手って…このガキではないよな?」

2メートル以上ある屈強な体躯を、小刻みに左右に振りながら会われた男は、自分の半分ちょっとの身長しかない少女を見下ろした。

黒のワンピースに、ぼさほざに伸びた髪が、少女の表情を消していた。

「その通りだ!」

部屋の角につけられたスピーカーから声が響いた。

「おい、おい。ガキだぜ」

男は手に持っていた刀を、床に突き刺すと、呆れかえった。

「こんなガキとやりあう趣味は、ないんだが…」



「ガキか…」

スピーカーの声は、少し笑っていた。

「おいしい仕事だが…俺にも、プライドがある」

男は、前に立ち竦む少女に背を向けた。

「ククク…。君程の男が、この部屋に入って、何も気づかないとはな」

「なに?」

スピーカーの声に、男は部屋を見回した。

明かりがついても薄暗い部屋の壁の色に、男は気付いた。

「赤か…」

最初…男は赤い壁紙だと思った。

しかし、色にムラがあることと、絵の具をぶちまけたような塊があることに気付いた。

「ま、まさか!?」

換気がよいのか…匂いがしなかったから、男は気付かなかった。

「血!?」

男は絶句した。

四方の壁についた血の量を考えると…一体どれほどの生き物を殺めたのか?

思わず、唾を飲み込んだ男に、スピーカーの声は告げた。

「約束しょう。この子を殺せたら、一億。生きて戻れても、それなりの報酬を与えよう」



男はゆっくりと振り返り、部屋の真ん中に立つ少女を見た。

「さあ…時間だよ。目の前の男を殺しなさい。なあ〜にい。心配はいらないよ。この男は、多くの人間を殺しているからね」

スピーカーからの言葉に、少女はゆっくりと顔を上げた。

前髪の隙間から、覗かれた瞳を男が見た時、彼は震えながら、床に刺していた刀を慌てて抜いた。

「さあ…殺りなさい!闇を殺すのだ」
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