天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「よい出来だ」

モニタールームで満足げに頷く老人を、部屋の角で灰色の壁に持たれてながら、見つめる男。

「…と、思わないかい?兜君」

老人は、兜の冷たい視線に気付いていた。

兜は、老人の目を避けるように少し俯くと、肩をすくめて見せた。

「研究者としては、興味深いですが…人道的には、どうですかね」

兜は顔を上げると、モニターに映る少女を見た。

部屋を出ることなく、少女はその場で、腕の接合手術を施されていた。

老人はちらっとモニターを見ると、鼻を鳴らした。

「最初は、野生動物を相手させていたのだが…」

老人は、モニターの下に置いてあるディスクに近づくと、鎮静剤だと思われるる薬の瓶を開け、錠剤を噛み砕いた。

「規制が厳しくてな。今は、人間の方が調達しやすい。なぜなら、人間は金で釣れるからな」



「先生…」

兜は、老人の横顔を見つめた。

九鬼才蔵。

兜の恩師であった。

もう70才はまわっているように見えるが、

まだ50代である。

極度の激務と、闇の戦いの日々が、彼を老いさせていた。


「闇と戦う為には、赤ん坊の時から鍛えなくてはならない」

才蔵は薬を飲み込むと、モニターを見上げた。

「しかし…」

兜もまた、モニターを見上げ、

「子供の頃から…人を殺めるのは、如何なものでしょうか?」

「単なる人ではない!闇に魅せられた者だ!魔獣因子を持つ!」

才蔵は声をあらげ、

「やつらと戦う為には!」

ディスクを叩くと、兜を睨み、

「闇を教えなければならない!そして、闇に墜ちた外道は、もう人ではないと!教えなければならない!」

興奮して、才蔵はディスクの上に置いた薬の瓶を落としてしまった。

錠剤が床に転がるが、才蔵は気にしない。

「闇と戦う為には、闇とともに暮らしながら、闇に堕ちない者が必要だ!」

才蔵は、手術を受けている九鬼を見つめた。

「例え…人として、矛盾していてもな
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