天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「どうなったんだ」

モニター室から出た才蔵は、脂汗を流しながらも、廊下の壁伝いに歩き出した。

「私の孫が、闇に取り憑かれるとは思えん!しかし…」

才蔵は、九鬼がいた部屋に近づくにつれ、血の匂いが強くなっていることに気づいた。

血の匂いを嗅ぐ度に、体が震えていくのを感じながら、才蔵は歯を食い縛った。

「まだ…待て…。最後の仕上げをするまでは…この体はやれん」


才蔵は、興奮している体を抑えように、自らの胸を握り締めた。

その時、静かな廊下にテンポがよい足音がこだました。

「!?」

才蔵は顔を上げた。

廊下は緩やかなループになっており、はるか向こうは見えなかった。

足音は確実に、こちらに向かっており、

影が最初に姿を見せた。

灰色の壁に映る影と足音から、近付いてくるのは、1人だとわかった。

才蔵は足を止め、息を整えながら、相手が姿を見せるのを待った。

血の匂いで興奮していた体も、落ち着いていた。

いや、小刻みに震えていた。

それは、歓喜からではなく、恐れであることが…才蔵にはわかった。

だからこそ、才蔵の頭は歓喜した。

(や、闇が震えておる…!私の研究は、成功したのだ)

体とは別に、才蔵自身は感動し、涙を流した。




そして、姿を見せた者を確認すると、才蔵は喜ぶのあまり号泣した。

「や、やはり…なれたのだな…月の戦士に…」




黒い戦闘服に身を包んだ九鬼が、才蔵の前に立っていた。

両腕だけは、真っ赤に染めながら。


「真弓!」

才蔵の叫びに、九鬼ははっとした。

曇った眼鏡の為、表情はわからなかったが、

どうやら意識を失っていたようだ。

九鬼は自分に起こったことに気づかずに、無意識に戦ったのだ。

「お、お爺様」


「真弓よ」

才蔵は、九鬼の姿に満足げに頷くと、大粒の涙を床に落とした。

そして、壁から手を離すと、九鬼に微笑みながら、最後の言葉を述べた。

「これが、仕上げだ」
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